運用成果の求め方~投資パフォーマンスを自分で評価できるようになろう~ その2
前回で運用成果の求め方の基本的な部分についてはやったのですが、今回はもう少し発展的な場合について考えていきたいと思います。
引き出し(売却)を伴う場合
途中で引き出し(売却)をする場合は当然あると思います。この場合も、考え方の基本は同じです。個別の投資とそれに対するリターンを求めてすべて足し合わせることで、全体の運用成果が出ます。
引き出し(売却)は、金額がマイナスの投資行為だと考えます。
例を挙げてみましょう。
1年目の年始に100万円を投資信託Aに投資しました。
投資信託Aのリターンは年率で次の通りです。
1年目:4%
2年目:5%
3年目:-3%
4年目:2%
5年目:1%
3年目の運用成績が悪かったので、4年目の年始に50万円を投資信託Aから引き出し(売却し)て、代わりに別の投資信託Bに投資しました。
投資信託Bのリターンは年率で次の通りです。
4年目:3%
5年目:2%
5年目の年末における全体の運用成果はいくらになるでしょうか?
①1年目の年始に100万円を投資信託Aに投資しました。これの5年目の年末におけるリターンを計算すると、 (万円)です。
②4年目の年始に50万円を投資信託Aから引き出しました。これをー50万円投資信託Aに投資したと考えるのがポイントです。すると、5年目の年末におけるリターンは (万円)と計算されます。
③4年目の年始に50万円を投資信託Bに投資しました。これの5年目の年末におけるリターンは (万円)となります。
全体の運用成果は、①~③をすべて足し合わせることで得られ、
(万円)として求まります。
投資期間が1年単位でない場合
通常、投資のリターンは年率で表されています。
しかし、私たちが投資をする場合には、ぴったり1年間投資するといったことはむしろ稀で、半年とか3カ月とか8カ月ちょっとなどの中途半端な時期に引き出し(売却)を行うことは普通によくあることでしょう。
この場合の運用成果の求め方を述べましょう。
100万円を年率5%のリターンである投資商品に投資する場合を考えます。
1年間投資した場合のリターンは当然 (万円)です。
では、半年後の時点ではいくらになっているでしょうか。
利息が年間5万円付いているから、その半分の利息2.5万円が付いているはずだと考えて、102.5万円でしょうか?
実は、この考え方は間違っています。
正しい考え方は次の通りです。
100万円が半年で 倍になっているとしましょう。このとき、
は半年分の利率に相当する値です。
今投資している対象はずっと年率5%のリターンですから、いつ投資しても同じ期間なら増え方は変わらないと考えられます。増え方が変わらないというのはつまり、同じ期間なら(増える金額が等しいのではなく)倍率が等しいということです。
また当たり前ですが、100万円を1年間ずっと投資し続けることと、100万円を半年間投資して、さらにもう半年間投資することは同じであるはずです。
100万円を1年間ずっと投資し続けた場合は 万円です。
100万円を半年間投資すると、 (万円)になっているとすると、これをさらにもう半年間投資した場合は、
(万円)になっているはずです。(同じ期間なら倍率が等しいため)
この両者の金額が等しくなるはずですから、次の式が成り立ちます。
したがって、
2乗するとすると になる数は
として表されるので(一般に
乗して
になる数を
と表します)
したがって、100万円を投資すると、半年後には
(万円)
になります。
ここで、半年が1/2年であることに注目しましょう。
年率5%の投資商品に投資すると、
1年後には 倍
2年後には 倍
……
年後には
倍
そして、
1/2年後には 倍
になるのです。
この観察から、一般に次の式が成り立っていることがわかります。
年率 のリターンである投資商品に金額 A を
年間(
は整数とは限らない正の数)投資した場合の運用成果は
である。
例えば、1カ月、2か月、……といった期間の場合は、1年が12か月であることから、 倍、
倍、……となります。
さらに、投資期間1カ月と10日のようにもっと中途半端な場合は、普通1年は365日であることから、 倍になると考えます。
ところで最初の例に戻ると、100万円を年率5%のリターンの商品に半年間投資した場合に 倍になっているとすれば、
が成り立っています。
この式によって求めた は、半年分の利率に相当する値です。つまり、単位期間を1年から半年に変更した場合の投資商品のリターンだと考えることができます。
この考え方に基づけば、1年=2半年であることから、1年間投資した場合の成果額が
で表されることは明らかでしょう。
また、これを用いると、1年半後の成果額は などと、半年単位の期間であれば簡単に成果額を求めることができます。
この考え方を応用して、毎月積立の積立投資の運用成果を求めてみましょう。
毎月積立の積立投資の成果の求め方
普通、積立投資をするなら1年毎ではなく、毎月積立するものでしょう。
そこで、毎月始めに1万円を年率5%のリターンである投資商品に10年間積立投資する場合の運用成果を考えてみましょう。
すると、次の問題が自然と発生することがわかります。
例えば、3か月後に積立した1万円が10年後にいくらになっているかを考えると、それは3か月後から見て9年9か月後のリターンを求めることになるわけです。だからこの場合は、 を求めることになります。
こういったことが毎月起こるわけなので、だいぶ煩わしいですよね。
そこで、先ほど説明した単位期間の変更を行いましょう。年率5%の商品を、月率いくらに直して考えるのです。
年率 5 %の商品が月率 %の商品であるとすると、次の式が成り立っています。
なので、月率 %の商品であると考えることができます。
すると例えば、3か月後に積立した1万円が10年後にいくらになっているかを考えると、それは3か月後から見て9年9か月=117カ月後のリターンを求めることになるわけです。だからこの場合は、 を求めることになります。形が綺麗になりましたね。
では、毎月積立の運用成果を求めましょう。
まず最初に1万円を投資します。これは10年後に (万円)となります。
1か月後に1万円を投資します。これは10年後に (万円)となります。
2か月後に1万円を投資します。これは10年後に (万円)となります。
……
9年11か月に1万円を投資します。これは10年後に (万円)となります。
したがって、全体の運用成果は、
ここで、中カッコの中身が初項 、公比
の等比数列の和になっていることから、
となり、これに %を代入して求めると、
万円として求められます。
原資は1万円×120か月で120万円なので、 倍になっています。
一括投資と積立投資の関係~投資はなるべく早く始めよう~
毎月1万円を年率5%のリターンである投資商品に10年間積立投資する場合の運用成果は、上で求めたように 万円です。
一方で、原資120万円を同じ年率5%の投資商品に一括投資した場合の運用成果は 万円になります。
積立投資する場合よりも一括投資の方がかなり大きな運用成果となっています。
これは、より前の時点で投資した方がより長く複利の恩恵を受けられるという事実によります。
最初にすべて投資してしまえば、すべての1万円が10年間複利で運用されますが、5年後に投資された1万円は5年分の複利でしか増えません。この差は一つ一つは小さくても、足し合わせると馬鹿にならないレベルで現れてくるのです。
ですから、なるべく多くの金額をなるべく早く投資することが、将来の大きなリターンの差に繋がってくることになります。
これはローンの返済についてもまったく同じことが言えます。なるべく早く大きな金額を返済してしまった方が、残りのローンにかかる利息が減ることになり、返済総額の減少に繋がります。
私自身もそうですが、若いうちはあまり多くの金額を投資できないことが普通です。しかし、投資において時間は大きな味方になります。少額しか投資できないからと軽視せず、なるべく早く投資を始めることが将来の大きなリターンの差に繋がるのです。