積立投資をシミュレーションしてみよう
積立投資をしましょうとここでも言っていますし、色んなところでも言われています。
定額を毎月積み立てていくような投資法は、ドルコスト平均法と言われています。検索にかけるとドルコスト平均法は有効だとか有効でないとか色々言われていますが、実際のところどうなんでしょう?
ということで、私の方でも検証してみることにしました。
積立投資を長期に渡って行う場合、期待リターンはどのくらいを見込むべきでしょうか。シミュレーションしてみます。
シミュレーションの条件について
多くの方が実行可能な設定とするため、以下のような条件でシミュレーションしてみます。
- 積立金額:毎月5万円
- 積立期間:30年
- 合計積立金額:1800万円
- 期待リターン:5%(年率)
- リスク:20%(年率)
それぞれについて、簡単に解説します。
積立金額ですが、毎月5万円としました。貯蓄をしっかり心がけることと、ボーナス等を併せると年間60万円くらいを出せる人はそこそこいるだろうという考えです。積立金額がいくらであろうと、リターンの率は変わりませんので、本質的な項目ではないです。
積立期間は30年としました。相当長い期間ですが、世界経済に投資するなら超長期でやらなければ意味がないと思います。何があっても続けると、ここは堅い意志を反映しました(笑)
期待リターンですが、年率5%としました。実際、世界株式自体の期待リターンは年率6~7%くらいはあるのですが、そこに税金がかかってきますので、実質のリターンは2割強押し下げられます。そこも加味して、大体5%くらいと考えました。
最後にリスクです。これは馴染みのない方もいらっしゃるかもしれませんが、過去の記事で解説しています。
簡単に言えば、リターンのばらつきの度合いをリスクとしています。ばらつきが大きいほどリスクが高いと考えるのです。
今回、シミュレーションにおいてはリスクをしっかりと考慮することにしました。
こういった積立投資のシミュレーションでよくありがちなのは、期待リターンに沿ってそのまま資産が積み上がっていくようなものです。
ですがあれは実は詐欺的と言いますか、実態とはかなり遠いものです。まったくリスクのない場合のシミュレーションだからです。
一般に、リスクのある商品に投資する場合、リスクのない商品に投資する場合よりも期待されるリターンは相当に下がります。
平均値という意味では下がりませんが、中央値(投資成績が上から真ん中の人の成績)はかなり下がります。
なぜかというと、現実でもそうですが、リスクのある場合、期待リターンより遥かに大儲けする人が出てくるため、これが平均を相当に押し上げてしまうからです。なのでいわゆる普通の人(真ん中くらいの人)の成績は、平均よりもかなり下がってしまいます。
今回のシミュレーションでは、中央値がいくらになるかを投資の基準とします。
話を戻しますが、リスクは年率20%としました。世界株式のリスクは高めにみてこのくらいの印象です(実績的には10数パーセントのことが多い)。
シミュレーションの方法について
ここからは少し専門的な話になりますが、シミュレーションでは期待リターンが正規分布(つまり株価は対数正規分布にしたがう)と仮定しています。
小難しいことはさておいて、要は株価はランダムに動くという仮定です。直感的に無理はない想定でしょう。
それから、リスクを考慮に入れるため、月毎のリターンは乱数を用いてランダムに発生させました。1回だけではまったく意味のある結果にならないので、1万回発生させています。
毎月のリターンを並べると、こんな感じです(笑)(縦が360行、横が1万列あります。めまいがしますねw)

これで1万人が投資した場合の平均的な結果に相当するものがわかります。
積立投資のシミュレーション結果
では早速結果を示しましょう。こんな感じになりました。

まずは平均トータルリターンに注目しましょう。2.84%と、単年の期待リターン5%より下がっています。
これをもとに積立投資は有効でないとか言う人もいますが、まったくの誤りです。
なぜなら、積立投資では積立期間の後半になるほど(当然ですが)新規投入した資金の投資期間が短くなるからです。その分投資の恩恵が受けられなくなるため、平均すれば期待リターンが下がるのは当たり前なのです。
最大値を見てみましょう。約30倍と滅茶苦茶儲かっています。いわゆる運がよかった成功者であり、こういったごく少数の成功者が平均を大きく引き上げています。
続いて中央値を見てみましょう。約3000万円という結果が出ました。合計積立金額が1800万円なので、大体1.67倍くらいになっているということです。
これがいわゆる平均的な投資成績なので、長期投資は大体30年で約1.67倍のリターンを期待するべきということになります。
こんなものか? と思うかもしれません。
こんなものです。
ただし、過去の実績では、株価は平均リターンに回帰する性質を持っているので、もう少しくらいは期待しても良いかもしれません。とはいっても2倍3倍くらいのものでしょう。
決して10倍20倍になるなどと期待し過ぎてはいけないということです。そんな魔法はありません。
あくまでも長期投資は健全な資産形成の方法であり、大儲けするためのものではない(そして大儲けしようと思うと必然的に一か八かのギャンブルになる)ということは肝に銘じておきましょう。
次は損をする確率を見てみましょう。上位80%のところでマイナスが出ているため、約2割の人は損をするということになります。最悪のケースでは8割も資産を失っています。
いくら注意して長期積立をしたところで、投資をする以上は必ずリスクを負うことになります。損をする覚悟もしっかりと持ってやりましょう。
ただし、やはり過去の実績では、30年保有して損失したケースはほぼないので、過度な心配はしなくて良いでしょう。投資対象はこのシミュレーションのように完全にランダムなものではなく、長期的には成長する世界経済なのですから。
一括投資の場合はどうなる?
ついでなので、一括投資のシミュレーションもしてみました。金額の大小はリターンの率には影響しないので、最初の5万円だけ取り出しています。

一括投資では、30年間フルに投資するために平均リターンの低下はなく、大体期待リターン通りの5%に近い数字になっています。
また、積立投資の場合と比べれば明らかですが、最も成功した場合のリターンがより大きく(100倍以上)、最も失敗した場合のリターンがより悲惨(96%の損失)となっています。
そして意外かもしれませんが、損をする確率は約2割と変わりません。
ということはどういうことかと言いますと、積立投資は、損をするかどうかという意味での確率のリスクは一括投資と変わらないが、最大損失額を減らすという意味では十分にリスク低減の効果があるということです。
代わりに大儲けする場合のリターンや平均リターンは相当に犠牲にしますが、平均リターンが犠牲になるのは、積立投資をしている以上は構造上仕方のないことです。
投資のタイミングをずらすということは、まったく効果がないわけではないのです。ですから皆さん安心して積立投資して下さい。
シミュレーション結果から見た最適な投資法とは~常に可能な最大額を可能な限り早く投資せよ~
以上、積立投資と一括投資を見てきましたが、これを見てどう感じたでしょうか。
やっぱり積立投資は意味がなくて、一括投資の方がより大きなリターンが期待できるからより優れている、と感じたでしょうか?
ですがよく考えて下さい。私たちの多くはサラリーマンです。最初に莫大な資金を用意することなど、借金でもしない限りはできないのです。そして借金してまで投資することが健全な投資とはとても思えません。
投資はリターンが期待できるものですから、現金として寝かせておくより早く投資を始めた方がより効果的なのは当たり前です(でなければ投資などする意味がありません)。
積立投資より一括投資の方が良いというのは、この当たり前のことを言っているに過ぎません。
私たちの大半が無理なく現実的に取れる戦略としては、ほぼ必然的に積立投資にならざるを得ません。毎月の給料から少しずつ投資するしかないのです。
しかしながら、もし今手持ちに多額の投資可能な資金があるとすれば、それをわざわざ分割してまで投資するのは意味がない、というのは一つの示唆でしょう。
そこで、私は最適な投資戦略として次を提案します。
基本的には積立投資で良いと思います。ですが、ボーナスなどが出た場合はタイミングを計らずに、投資できる部分はすぐに全額投資しましょう。
常に可能な最大額を可能な限り早く投資せよ。
これこそが長期投資としては最適な投資法であると、本稿では結論付けておきましょう。