NEM

NEMを自分なりに調べてみた~「富の分配」の理想と現状の課題点~

NEMを自分なりに調べてみた~「富の分配」の理想と現状の課題点~

NEMについてそれなりに踏み込んで調べてみました

私は、実のところ現状のNEMをあまり気に入っておりません。

私も最初はNEMを本当に良い通貨だと思っていました。仮想通貨投資を始めた11月の時点では、何も知らずにNEMを素晴らしいものだと信じてポートフォリオに加えていたのです。

NEMが理念として掲げる「富の分配」「新しい経済圏」というのは、言葉の上では大変素晴らしいものであり、この理念に共鳴してNEMを購入したという方も多いのではないでしょうか。

実際、NEMbarやNEMketなど、NEMを使った経済的な試みは既にいくつも現れてきています。この点について、好ましい盛り上がりを感じないわけではないです。こうした試みに関わっている人たちを悪く言うつもりはまったくありませんし、とても良い試みだと思っています。

あと、NEMちゃん可愛い

 

……しかしです。

 

このブログの妙な濃さが示しているように、私はまだ始めて2ヵ月強ながら、仮想通貨についてそれなりに熱心に勉強を続けてきました。PoW、PoS、PBFTを始めとしたコンセンサス(合意形成)アルゴリズムについても、もちろん勉強しています。

そうして学んでいけばいくほどに、NEMのちぐはぐさ、欠点が目に付いてきてしまったのです。

NEMは、お題目に掲げているほどには素晴らしい通貨ではないのではないか……。

 

むしろ、どうも現状では言っていることとやっていることがかなり離れているのではないかと思えてきて仕方がありませんでした。

説明のため、以下「NEMの説明書」から引用しましょう。

POIとは何か?

NEMの公式ブログが原文であり、その日本語訳になっています。主張については赤字で示します。

この問題を避けるため、POSというシステムが導入されました。これはPeercoinという暗号通貨で最初に実装されました。従来のマイニングの代わりに、(電力ではなく)いくらPeercoinを持っているか、ということを指標に採用しました。

そうすることによって、より多く・より古くからコインを持っている人が、次のブロック生成の機会を与えられる(つまり報酬が得られる)ため、コンピューティングパワーに必要な電力が多く抑えることができます。

しかし、ここにも幾つか問題があります。お金持ちが次のブロックを生成しやすく、そこでさらにお金持ちがさらにお金持ちになります。お金持ちがさらに豊かになっていくという問題は先ほどのPOWと同じです。

ここでNEMが槍玉に挙げているPoS通貨の問題点は、主に次の点にあります。

  • PoSでは、保有額と保有期間の積に応じて比例的に儲かってしまうため、大量保有者ほどさらに儲かってしまう不公平な構造を持っている

  • 大量保有することに強いインセンティブがあるため、溜め込みを促し、流動性の低下に繋がる

  • 流動性の低下が進むと、長期的にはシステムが健全に機能しなくなる

これはPoS通貨の宿命とも言える構造的欠点であり、私が個人的に応援しているADAであっても例外ではありません。私の一番の懸念点の一つは、実はADAがPoS通貨であることによって、長期的にプラットフォームが機能不全に陥るのではないかということです。

NEMはこの問題点に対し、解決策を用意しているとしています。

PoI(proof of importance、重要度による証明)です。

 

再び同文章から引用しましょう。

 

そこでNEMの登場です。NEMの採用しているPOIは、持っているお金だけでなく、取引をした額や、取引をした人も考慮に入れて報酬を与えています。

つまりこれは、NEMネットワークを積極的に使う人が、利益を得られる仕組みになっています。この仕組みが優れているのは、富の分配の点です。NEMのネットワークに貢献した人は誰でも基軸通貨であるXEMを手に入れることができます。誰でも平等に機会を与えているのです。主な目的は、「世間一般の人」に力を与えることなのです。

PoSにおいては、お金持ちがさらにお金持ちになる。しかしPoIにおいては「富の分配」が実現するとしています。とても綺麗な言葉です。

ですが……。

 

少なくとも次の点において、現状のNEMは理想とは明らかに食い違うことをやっています。これは私がきちんとPoIの算式を調べて出した結論です。

  • 現状のPoIは、ただでさえ大量保有者にとって有利なPoSに「輪をかけて」大量保有者に有利なシステムである(そして、算式を改良したりハーベスティング参加要件を緩めてもPoSの本質的改良ではない。似たようなものでしかない)

  • 他通貨と比較しても高いサービス手数料(高いこと自体がまず問題。さらに、徴収された手数料の使い道は未定であるものの、ノード報酬やコミュニティファンドに回されるのではないかとされており、いずれにしても富は持たざる者から持つ者へと移る

よくよく読めばすべて公式サイトやホワイトペーパーに書いてあることから導ける事実であり、ことさらに問題にする必要はないという方もいるでしょう。

世の中が不平等であることは常識である。NEMが不平等だからと言って、何の問題があろうかと。

 

世の名は不平等です。それは疑いのない事実です。そして私も平等であることが何にも優先するとはまったく思いません。資本主義こそまさに、人間の経済的合理性が生んだ不平等な仕組みであり、有史以来続いてきたものです。そして不平等を生む代わりに、多くの恩恵も生んできました。資本主義に生きてその恩恵を受ける私が、不平等そのものを毛嫌いして批判するのはまったくのお門違いでしょう。

しかし、だからNEMも何ら問題がないという主張は、やや強引です。

それは、NEMがPoS通貨に劣らず不公平な通貨であるという事実を知っている人が十分に多いという前提によってのみ成り立つ主張です。

 

NEMの問題点は、上の引用で挙げたように、一見すごく綺麗事を言っているために、また綺麗事を実現できる仕組みであるかのようにPoIを宣伝してしまっているために、実際は別にそんなことはないし、できないという事実について人々の目を向けにくくしていることにあります。

 

私が指摘したいのは、ここです。

 

実際は不平等そのものであるにも関わらず、さもそうでないように見せかけて、善意の無知者の目を欺きかねない言葉を使って誘惑していることについてです。

 

もちろんもっともな言い訳はあるでしょう。最初にPoIの式を設定したときよりも遥かに価格が上昇して、色々な条件やパラメータがどうしても対応できていないとか、だから仕方ないとか、そういった主張はまあいくらか本当のことだと思うし、わかります。

ただ悪いですが、そういった反論もやや論点がずれています。

価格がいかに安かろうと高かろうと、ハーベスティング参加要件がどうだろうと、算式のパラメータがどうだろうとPoIはシステムとして本質的にPoSとほとんど何ら変わらない代物です。
これは当初の設定時からの変わらない事実であり、他ならぬ設定者が一番よくわかっていたはずです。
であるのに、上の宣伝の仕方はちょっと問題がある気はしますね。 我々こそがPoSの問題点を解決しているのだと受け取られかねない主張をしているので。

 

まあNEMのPoIがPoSとそんなに変わらないという事実は、PoIの難しい算式についてきちんと調べないと見えて来るものではありません。

そして結構な人が、精々が「現在のハーベスティング参加要件である10000XEMを緩和すればそれだけでかなり不平等は解消する」と思ってしまっています。10000XEMからの緩和自体は、NEM運営は元々予定として考慮に入れていることでもあります。

おそらく少なくない人たちが、「現状はともかく、ポテンシャルとしてはPoIはPoSよりも素晴らしいもの」だと、公式の言う通りに信じてしまっています。でも本質的には、大した違いはありません(笑)

 

ハーベスティング要件を緩和すれば、パラメータを弄れば、確かにいくらか不平等は改善されます。しかし結局のところ、いくら条件を緩めてみたところで、PoIはPoSの本質的な改善にはまったくなりません。流動性についても一定の効果はあるものの、限定的と言わざるを得ません。

どう足掻いてもPoIはPoSの亜種でしかないということです。改良ではありません。

 

色々調べた結果、NEMだけが特別に悪いとは言いませんが、公式に掲げられているほど素晴らしいものではありません。

サービス手数料も高いです。他にもっと良さそうな通貨は色々あります。

お題目を心から信じていた方には、もしかしたらショックだったかもしれません。あるいはそんなことは最初から知っていたという方もそれなりにいらっしゃるのかもしれませんが。

ただ私は、この事実を知らずに、NEMの掲げるPoIがPoSよりも公平な仕組みだと思って投資している人が結構多いのではないかと考えています。そこで今回、あえて取り上げて事実の周知をすることにしました。

 

一応、私の立場を申し上げますと、私は決してNEMの不買を呼びかけるものではありません。あくまでも事実の周知と、将来の改善を期待して書くものです。

NEMの理念である「富の分配」の真の賛同者こそ、かなり不平等なシステムになってしまっている現状をよくよく認識して頂きたいと思っています。

ただ不平等も、結局は程度問題です。それに対して少しでもできることを、システムの改善をみんなが真剣に議論することが有意義なのではないかと思います。

NEMコミュニティが本当に良いものであれば、やがて問題点は改善されていくでしょう。私は今後改善されることを少し期待しています。

 

おまけ~PoIがPoSとそんなに変わらない理由~

PoIがPoSとそんなに変わらないことのスケッチを描くと、大体次の通りです。

細かいことは無視してすごく大雑把に言うと、PoSは「保有量」に応じて比例的に報酬が決まり、PoIは「保有量」と「送金量」に応じて比例的に報酬が決まります。

そこで、次の記号を用意して、PoS、PoIそれぞれの報酬について論じます。

S:保有量、T:送金量、k,l,m:比例定数

1.PoSの報酬

大体保有量Sに比例するので、比例定数kを用いて

(PoSの報酬)=kS

となります。

2.PoIの報酬

大体保有量Sと送金量Tに比例します。

ここで、送金量Tは保有量Sに関する増加関数とみなせるでしょう。普通は多く持っている人ほど多く送金できるし、送金によって重要度スコアを稼げることを考えれば、インセンティブのためにもある程度はするでしょう。

そこで、Sに関する増加関数としてT=f(S)とおけます。

ここで、fが上に凸か下に凸かが重要なのですが、重要度スコアというインセンティブがあるため、持っているほど送金量が逓減していくとは考えにくいので、下に凸とまでは言い切れないものの上に凸だとしてもかなりフラット(比例関係)に近いものにはなるでしょう。

さて、PoIの報酬は、保有量Sと送金量Tに比例するので、それぞれ比例定数k,mを用いて、次のように表されます。

(PoIの報酬)=kS+mT

ここで、T=f(S)を代入して

(PoIの報酬)=kS+m・f(S)

となります。

まとめましょう。

(PoSの報酬)=kS

(PoIの報酬)=kS+m・f(S)

です。

ここで、fは下に凸か、もしくは上に凸だとしてもフラットに近い形状と考えられるため、Sにほぼ比例的かそれ以上のペースでPoIの報酬は増加します。

つまり、PoIも結局は持つ者ほどより稼げる仕組みだと言うことです。

しかも、実際のNEMは送金量Tに条件があります。それは「送金元も送金先も10000XEM以上持っていて、かつ一回の送金が1000XEM以上でないと重要度スコアの加算対象とはならない」というものです。

こうした項目があるために、実際のPoIはPoSよりも大量保有者にやや有利に働くと考えられます。

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